パートについて

パ−ト労働や工場労働、臨時工などの家計補助型労働の支援は早くから充実していた。 戦後の経済成長期の女性労働はそうした内助の功型がほとんどであり、それら労働者の子育て支援策として公立や社会福祉法人立の保育所が急速に整備された。
七0年代までに二万二一OOOカ所の保育所と一九O万人定員が実現している。 さらにほとんどの工場に保育所があるなど、金業内保育所も非常に多かった。
要するにパ−ト労働や臨時工など現場労働者の母親の子育て支援設備は大変よく整備されていたと言える。 その後状況が変わり、技術革新が進んで工場が効率化され、いまでは現場労働者はほとんどいない。
例えば電機会社の工場は、三O年前には女性従業員がずらっと並んで組み立て作業をやっていたが、いまは自動化やロボットが普及して人間はほとんどいない。 そうした職場の変化に伴い、いまでは事業所内保育所もほとんどなくなった。
一方、それと併行して労働者の高学歴化や経済のサービス化が進行した。 工場現場にはほとんど労働者がいないが、本部や電算センターへ行くと、高学歴のホワイトカラーがひしめいており、女性も多い。
あるいは銀行や広告会社などに行っても、多くの有能な女性が仕事をしているが、彼女たちにとって子育ての環境は極めて劣悪である。 昔は現場労働者のために事業所内保育所などの使いやすい仕組みがあった。
いまは高学歴キャリアワ1カーなどの不定型な労働に従事するフルタイム勤労者を支援する仕組みがない。 労働はますます多様化し、不定型で自己裁量型になり、女性の聞でもそういう仕事がどんどん増えているにもかかわらず、インフラ整備が大きく立ち遅れているのである。
このギャップついては、おそらく児童福祉法の考え方が影響していると思われる。 児童福祉法は昭和二二年につくられた法律で、それには「保育に欠ける家庭の保育を市町村等の地域公共団体が支援する」という規定がある。

「保育に欠ける」とは主として片親の家族のこと、貧困を指している。 当時の戦後の混乱期には、保育に欠ける家庭を公共団体が支援するというのは極めて的確かつ必要な政策だった。
ところが戦後の高度成長期を経て社会が成熟し、経済のサービス化が進み、女性をめぐる環境がそれ以前とは大きく変化してきているときに、保育に欠ける家庭の支援では実態と全くかみ合わなくなっている。 その一方で、多くの家庭が保育サービスを必要としている。
女性がフルタイムで働こうとすれば保育サービスが必要である。 誰かの手に任せなければならない、自分で何もかもはできなぃ。
いま児童福祉法は、「保育を必要とする家庭へのサービスの提供」と書き換えられるべきときに来ている。 一九七0年代までは工場など現場で働く女性が増加するにつれて保育所など子育て支援インフラも整備された。
ところが八0年代以降、女性の労働市場参加、とりわけ潜在的な労働参加が増勢を強めたのと対照的に、図表212にみられるように、保育所数や定員数はむしろ漸減した。 これは戦後の家計補助的労働や工場現場などの女性労働の減少を反映していると同時に、成熟産業社会の働く高学歴女性の子育てを支援する社会インフラの整備が大きく立ち遅れていることを明白に物語る。
今後、新しい子育て支援ニ−ズはますます高まる。 つまり高度専門能力を要する女性労働は今後、加速度的に増えるはずである。

その一方で、ますます財政制約が強まっているため、旧来の公立や社会福祉法人立の補助金依存型の保育施設整備にははっきりと限界がみえている。 むしろ利用者の支払能力や民間の経営能力を活用した保育施設の整備、子育て支援サービスの拡大が求められる。
いまや時代はそこまできているのである。 エンゼルプランは大きな予算が必要な計画であり、財政負担が非常に大きい。
というのは、上記のような施設を整備すると、先述のように、施設整備費に固から五O%、都道府県から二五%、合わせて七五%の補助金が出る。 加えて運営費補助も非常に嵩む。
特に01二歳の低年齢児の保育コストが高く、大都市では月に五O万円もかかるが、親の負担は最大で月五万円程度である。 つまり九割近い補助率になっている。
子育て支援の国の予算は約四五OO億円だが、自治体の負担はおそらく一兆円を超えていると思われる。 近年、財政制約が厳しくなり、これ以上の財政支出の増大は困難になってきた。
子育て支援の社会的需要は加速度的に拡大している。 この難問を解くカギは、民間の保育所、民間の子育て支援サービスを拡充する以外にない。
ところが、現実には民間保育所の参入は非常に難しい。 第一の理由は、官民の価格格差である。
民間の保育コストは平均一人当たり月一五万〜二O第2章高齢者ケア・子育て支援サービス万円くらいで、三O万〜五O万円もかかっている公立施設よりずっと安いが、料金は八万1一人の施設の料金は月五万円程度が上限であり、この料金では民間は太万打ちできず、参入は事実上困難だからである。 第二は、万一、民間企業が参入できたとしても、経営上の制約が大き過ぎることである。
例えば、子育て事業以外に利益を処分してはならない等、経営資源の使途や利益処分に対して強い制約が課せられている。 これでは、せっかく参入したとしても経営能力を十分に生かすことはできない。

第三は、認可に対する障害である。 認可は地域の判断であり、必要性の判断は市町村の認定委員会がするが、民間保育所の申請の多くはそこで排除されてしまう。
なぜなら、委員会の構成員に経験者を入れることになっているが、旧来の経験者は社会福祉法人にしかいない。 従って、例えば一一人の委員会をつくるとして、委員長が一人、市役所の人が五人で、残り五人は社会福祉法人の人ということになる。
彼らの多くは、子育てをめぐる社会的需要の変化をあまり認識していないし、経営能力がある民間との競争を恐れて、その地域では保育支援需要は満たされていると結論することが多く、その結果、民間の申請は受理されないことになるからである。 現実に、町で整備したものを民間に入札させ運営させるという二一鷹市などの公設民営のケースをみても、経営上の規制に加え、地元の既得権者との乳蝶が非常に多い。
最近は社会福祉法人の資格取得が比較的容易になったため、何かと制限の多い民間よりも補助を受けられる社会福祉法人の方が得という風潮が一部で強くなり、ますますお金がかかるという悪循環も起きている。 財政難の一方で子育ての社会的需要は増えているのだから、財政の制約を受けない民間の保育所を社会のニ−ズとバランスするところまで増やすことができれば、問題は解決する。
そのために筆者が提案しているのが「企業のネットワーク型保育サービス」である。 先に、民聞が参入しようとすると排除されてしまうと述べたが、企業の中に保育所をつくるのであれば排除されない。
これらの事業所内保育所を企業間でネットワークにしようというのが「企業のネットワーク型保育サービス構想」である。 図表213は、この構想の骨子を分かりゃすく図解したものである。
この構想では、保育施設をつくる企業が互いに共通の利用券を発行し、それらの企業に働く人が複数の施設の中から使い勝手の良い施設を利用できるようにする。

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